安全衛生管理体制
このお役立ち情報のポイント
- 安全衛生管理体制について理解しましょう。
- 事業場内で選任すべき安全衛生業務従事者のそれぞれの役割・選任について理解しましょう。
- 労働災害に備えて自社の安全衛生管理体制を見直し、必要な災害対策を行いましょう。
安全衛生管理体制とは
安全衛生管理体制とは、労働安全衛生法(以下、安衛法)で義務付けされている、主に労働災害の防止を目的とした体制を事業場ごとに形成するために、いくつかの役割を担うスタッフを選任し構築される体制のことをいいます。
安衛法第1条においてその目的が下記の通り記載されています。
第一条 この法律は、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)と相まつて、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。
労働災害を防止し、
- 危害防止基準の確立
- 責任体制の明確化及び自主的活動の促進
- 職場における労働者の安全と健康の確保
- 快適な職場環境の形成
を行うために企業(事業場)内で安全と衛生に関する組織体制を整えることを目的としています。
この安全衛生管理体制はすべての業種に対して必要なことですが、それぞれの業種や事業規模により労働災害の頻度が異なるため、それぞれの業種や事業規模に応じて、委員会の設置や管理者の配置が異なります。
事業場内で選任すべき安全衛生業務従事者
労働災害を防止するための安全衛生管理体制を構築するために事業場内で選任すべき、それぞれの業務の管理者や推進者を安全衛生業務従事者といいます。安全衛生業務従事者には、総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医、作業主任者、安全衛生推進者などの役割があります。
下記のフローチャートで、屋外的産業、製造工業的産業および商業等、それらに該当しないその他の業種に関して、事業規模ごとに事業場内で選任すべき安全衛生業務従事者を記載しています。
事業規模を表す「常時雇用する従業員数」については、企業単位ではなく「事業場ごと」の従業員数になります。また、「常時雇用する従業員数」は日雇労働者やパートタイム労働者なども含め常態として使用される労働者を指しますのでご注意下さい。
※上記のフローチャートに記載の「作業主任者」は事業所単位ではなく、作業場所単位での選任となります。
各安全衛生業務従事者の概要・業務内容等
こちらの項目では、安全衛生業務従事者のそれぞれの役割である、総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医、作業主任者、安全衛生推進者についてご紹介しますが、その前に、それぞれの役割を選任する際に注意したい用語について解説します。
選任・専属・専任
「選任・専属・専任」という言葉はとても似ている言葉ですが、意味がすべて異なり、それぞれの意味をきちんと理解することによって安全衛生業務従事者の要件を正しく理解することが出来ますので、注意して下さい。
- 選任
「ある人を選んでその役割を任せること」という意味です。つまり従業員の中から安全衛生業務従事者を選んでその役割を任せることを意味します。 - 専属
「その場所にのみ属している」という意味です。つまり該当する事業場にのみ属していること、該当する事業場にのみ勤務していることを意味します。 - 専任
「かけもちではなく、その業務にのみついていること」という意味です。つまり当該事業場の専属であり、かつ、通常勤務時間の全てを選任された業務内容に費やすことを意味します。
これらの言葉の意味に注意して、それぞれの役割を確認していきましょう。
総括安全衛生管理者とは
- 概略
各事業場における事業の実施において、実質的に統括管理する権限及び責任を有する者をいいます。またこれ以降に紹介する安全管理者や衛生管理者、そしてずい道等救護技術管理者等を指揮・監督する立場にある者をいいます。 - 職務内容
安衛法第10条で定められている下記の5つの業務に関して統括管理を行います。- 労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること。
- 労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること。
- 健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること。
- 労働災害の原因の調査及び再発防止対策に関すること。
- 前各号に掲げるもののほか、労働災害を防止するため必要な業務で、厚生労働省令で定めるもの。
- 資格
総括安全衛生管理者としての法的な資格はありませんが、安衛法第10条第2項に定められている通り、各事業場において、工場長や事業所長などの役職のように、その事業の実施を実質的統括管理する権限及び責任を有する者を充てる必要があります。 - 選任
・報告義務
総括安全衛生管理者を選任する場合、選任する必要のある事象が発生してから14日以内に選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署に届出を行う必要があります。
安全管理者とは
- 概略
安全管理者は、総括安全衛生管理者が行う業務のうち、安全に関わる技術的事項を管理することを目的として選任される者をいいます。 - 職務内容
安全管理者は、事業場・作業場等を巡視し(回数規定なし)、設備や作業方法において安全でないと思われる場合には、必要な措置を講じる必要があります。
以下、具体的な必要な措置を記載します。(厚生労働省HPより抜粋)
安全管理者には、下記の措置を講じる権限があります。- 建設物、設備、作業場所または作業方法に危険がある場合における応急措置または適当な防止の措置
- 安全装置、保護具その他危険防止のための設備・器具の定期的点検および整備
- 作業の安全についての教育および訓練
- 発生した災害原因の調査および対策の検討
- 消防および避難の訓練
- 作業主任者その他安全に関する補助者の監督
- 安全に関する資料の作成、収集および重要事項の記録
- その事業の労働者が行う作業が他の事業の労働者が行う作業と同一の場所において行われる場合における安全に関し、必要な措置
- 資格
安全管理者に選任できる者に必要とされる資格は下記の2つとなります。- 下記のいずれかに該当し、且つ厚生労働大臣の定める研修(安全管理者選任時研修)を修了した者
- 大学、高等専門学校の理系の正規課程を修めて卒業し、その後2年以上の産業安全に関する実務に従事した経験を有する者
- 高等学校、中等教育学校の理系の正規課程を修めて卒業し、その後4年以上の産業安全に関する実務に従事した経験を有する者
- 大学、高等専門学校における理系以外の正規課程を修めて卒業し、その後4年以上の産業安全に関する実務に従事した経験を有する者
- 高等学校、中等教育学校の理系以外の正規課程を修めて卒業し、その後6年以上の産業安全に関する実務に従事した経験を有する者
- 7年以上の産業安全に関する実務に従事した経験を有する者
- 労働安全コンサルタント
- 下記のいずれかに該当し、且つ厚生労働大臣の定める研修(安全管理者選任時研修)を修了した者
- 選任
・報告義務
安全管理者を選任する場合、選任する必要のある事象が発生してから14日以内に選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署に届出を行う必要があります。また、労働基準監督署長は、その事業所に対して労働災害防止のために必要な場合、人員の増員もしくは解雇を命ずることができます。
・専属
安全管理者は、原則、その事業所に「専属」の者を選任しなければいけません。例外として、当該事業場に2名以上の安全管理者を選任する場合で、その安全管理者に労働安全コンサルタントが含まれる場合は、労働安全コンサルタントのうち1人は専属でなくても問題ありません。つまり外部委託が可能ということになります。
・専任
製造工業的産業・商業にあたる業種で常時50人以上の従業員がいる事業場では、安全管理者の選任が必要となります。そのうち、以下の場合においては、選任された安全管理者のうち1人を専任の安全管理者とする必要があります。- 建設業、有機化学工業製品製造業、石油製品製造業において、常時使用する労働者数が300人以上の場合
- 無機化学工業製品製造業、化学肥料製造業、道路貨物運送業、港湾運送業において、常時使用する労働者数が500人以上の場合
- 紙・パルプ製造業、鉄鋼業、造船業において、常時使用する労働者数が1,000人以上の場合
- 上記以外の業種で、過去3年間において労働災害による休業日数が1日以上で死傷者数の合計が100人を超える事業場で常時使用する労働者数が2,000人以上の場合
選任すべき安全管理者の人数について一般的な規定は設けられていませんが、事業規模や作業内容等の実態において必要に応じて2人以上を選任するよう努力義務が必要とされています。
衛生管理者とは
- 概略
衛生管理者は、総括安全衛生管理者が行う業務のうち、衛生に関わる技術的事項を管理し労働者の健康に関わる障害を防ぐことを目的として選任される者をいいます。 - 職務内容
衛生管理者は、事業場・作業場等を巡視し(少なくとも週1回)、設備や作業方法、衛生状態において、労働者の健康障害において有害であると思われる場合には、必要な措置を講じる必要があります。
以下、具体的な必要な措置を記載します。(厚生労働省HPより抜粋)- 労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること。
- 労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること。
- 健康診断の実施その他の健康の保持増進のための措置に関すること。
- 労働災害防止の原因の調査及び再発防止対策に関すること。
等のうち衛生に関する技術的事項の管理を行います。
- 資格
衛生管理者に選任できる者は、業種によって必要な資格があります。※厚生労働省HPより抜粋
<業種①>
農林畜水産業、鉱業、建設業、製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、水道業、熱供給業、運送業、自動車整備業、機械修理業、医療業及び清掃業
<業種①に必要な資格>
第一種衛生管理者免許若しくは衛生工学衛生管理者免許又は医師、歯科医師、労働衛生コンサルタント、厚生労働大臣の定める者
<業種②>
上記以外の業種
<業種②に必要な資格>
第一種衛生管理者免許、第二種衛生管理者免許、衛生工学衛生管理者免許、医師、歯科医師、労働衛生コンサルタント、その他厚生労働大臣が定める者 - 選任
・報告義務
衛生管理者を選任する場合、選任する必要のある事象が発生してから14日以内に選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署に届出を行う必要があります。また、労働基準監督署長は、その事業所に対して労働災害防止のために必要な場合、人員の増員もしくは解雇を命ずることができます。
・専属
衛生管理者は、原則、その事業所に「専属」の者を選任しなければいけません。例外として、当該事業場に2名以上の衛生管理者を選任する場合で、その衛生管理者に労働安全コンサルタントが含まれる場合は、労働安全コンサルタントのうち1人は専属でなくても問題ありません。つまり外部委託が可能ということになります。
・専任
すべての業種において常時50人以上の従業員がいる事業場では、衛生管理者の選任が必要となります。そのうち、以下の場合においては、選任された衛生管理者のうち1人を専任の安全管理者とする必要があります。- 常時1,000人を超える従業員がいる事業場
- 常時500人を超える従業員がいる事業場で、坑内労働又は労働基準法施行規則第18条で定められた有害業務に常時30人以上の労働者を従事させる場合
選任すべき衛生管理者の人数については、事業規模(常時使用する労働者数)によって以下のように定められています。
- 50人〜200人の場合 ⇒ 1人
- 201人〜500人の場合 ⇒ 2人
- 501人〜1,000人の場合 ⇒ 3人
- 1,001人〜2,000人の場合 ⇒ 4人
- 2,001人〜3,000人の場合 ⇒ 5人
- 3,001人以上の場合 ⇒ 6人
産業医とは
- 概略
産業医とは、事業場の労働者の健康管理等を行う立場であることから、通常の医師であることに加えて専門的な知識、および厚生労働省が定める要件を備えた者をいいます。産業医がいることにより、労働者の正しい健康管理だけでなく、衛生教育や作業環境の管理などについて助言が受けられ、労働者一人ひとりの健康に対する意識向上にも役立ちます。 - 職務内容
産業医は、事業場・作業場等を巡視し(少なくとも月1回)、衛生管理や作業方法において、労働者の健康に対して有害であると思われる場合には、必要な措置を講じる必要があります。
以下、具体的な必要な措置を記載します。- 健康診断、面接指導等の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置、作業環境の維持管理、作業の管理等労働者の健康管理に関すること。
- 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。
- 労働衛生教育に関すること。
- 労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。
- 労働者のストレスチェックとストレスチェックにより判断された高ストレス者への面接やその結果に基づく措置
- 長時間労働者に対する面接指導やその結果に基づく措置
- 資格
産業医は、医師であることを前提に、下記のいずれかの要件を備えた者から選任する必要があります。- 厚生労働大臣の指定する者(日本医師会、産業医科大学)が行う研修を修了した者
- 産業医の養成課程を設置している産業医科大学その他の大学で、厚生労働大臣が指定するものにおいて当該過程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者
- 労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験区分が保健衛生である者
- 大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授、常勤講師又はこれらの経験者
- 選任
・報告義務
産業医を選任する場合、選任する必要のある事象が発生してから14日以内に選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署に届出を行う必要があります。
・専属
産業医は、安全管理者や衛生管理者のように原則として専属の従事者を選任する必要はありません。しかし、当該事業場の業務内容や事業規模によって専属の従事者を選任する必要がある場合があります。- 常時1,000人以上の従業員がいる事業場
- 労働安全衛生規則第13条第1項第2号に定められた有害な業務を行う事業場で、常時500人以上の労働者を従事させる場合
上記に該当しない事業場については、基本的に産業医は外部委託が可能です。選任すべき産業医の人数については、常時3,000人を超える従業員のいる事業場では2名以上の産業医の選任が必要となります。
作業主任者とは
- 概略
作業主任者とは、高圧室内作業をはじめとするその他の労働災害を防止するための管理を必要とする一定の作業について、その作業の区分に応じて選任される管理者をいいます。作業主任者は事業規模に関わらず、労働災害を防止するための管理を必要とする一定の作業であれば、必ず必要となる安全衛生業務従事者となります。 - 職務内容
作業主任の主な業務は、労働災害を防止するための管理を必要とする一定の作業に従事する労働者の指揮・管理となります。 - 資格
作業主任者は、都道府県労働局長の免許を受けた者もしくは都道府県労働局長の登録を受けた者が行う技能講習を修了した者のうちから選任される必要があります。作業主任者が必要な作業およびそれに該当する必要な資格については、厚生労働省HPの該当ページをご参照下さい。 - 選任
・報告義務
作業主任者の選任において所轄の労働基準監督署への届出の必要ありませんが、選任された作業主任者の氏名及びその者に行わせる事項を作業場の見やすい場所に掲示する等(作業主任者の腕章の着用、特別の帽子の着用等の措置を含む)により関係労働者に周知させる必要があります。
安全衛生推進者(衛生推進者)とは
- 概略
安全管理者、衛生管理者を選任する必要のない事業規模の事業場において、安全衛生水準の向上を図ることを目的として安全衛生推進者もしくは衛生推進者を選任します。屋外的産業、製造工業的産業、商業等において常時雇用する労働者数が10人以上50人未満の事業場において選任されるのが安全衛生推進者で、それ以外の業種では衛生推進者と呼びます。 - 職務内容
- 労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること。
- 労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること。
- 健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること。
- 労働災害の原因の調査及び再発防止対策に関すること。
- 前各号に掲げるもののほか、労働災害を防止するため必要な業務で、厚生労働省令で定めるもの。
※衛生推進者については、衛生に関わるもののみ担当すること。
- 資格
安全衛生推進者(衛生推進者)の主な資格要件は下記となります。- 大学または高等専門学校を卒業し、その後1年以上安全衛生の実務を経験した者
- 高等学校または中等教育学校を卒業し、その後3年以上安全衛生の実務を経験した者
- 学歴によらず、5年以上安全衛生の実務を経験した者
- 厚生労働省労働基準局長が定める講習を修了した者
- 安全管理者及び衛生管理者・労働安全コンサルタント・労働衛生コンサルタントの資格を有する者
- その他厚生労働大臣が定めた者
- 選任
・報告義務
安全衛生推進者(衛生推進者)を選任する場合、選任する必要のある事象が発生してから14日以内に選任する必要があります。しかし、所轄の労働基準監督署への報告は必要ありません。選任された安全衛生推進者(衛生推進者)の氏名及びその者に行わせる事項を作業場の見やすい場所に掲示する等により関係労働者に周知させる必要があります。
・専属
安全衛生推進者は、当該事業場に専属の者を選任する必要があります。しかし、労働安全コンサルタント、労働衛生コンサルタントその他厚生労働大臣が定める者のうちから選任する場合は、専属の者である必要はありません。つまり、コンサルタントとしての資格を持つものを選任する場合は、外部委託が可能ということになります。
最後に
一般のご家庭など、会社以外の場所でも地震や火事、台風などの災害に備えて防災グッズや非常用持ち出しグッズを用意したり、家族と非難場所を話し合ったり、万が一のことが起きた場合を想定して対策を行っている場合もありますよね。それと同様に、会社における「労働災害」に対しても事前の対策が必要です。
会社における「労働災害」の対策のひとつが、安全衛生管理体制の整備になります。安全衛生管理体制をしっかりと整えることで、労働災害防止に繋げることができます。体制を整えることによってそれぞれの役割に対する責任が明確化され、管理者一人ひとりの責任が生まれます。安全衛生管理に関する教育体制もしっかりと行うことによって、業務に従事する従業員全員が安全衛生管理に関する知識を持つことが出来、一人ひとりの意識も変わっていきます。これによって労働災害が起こりにくい労働環境を作り上げていきましょう。
また、どんなに万全の対策を練っていても、労働災害の発生リスクはゼロではありません。ぜひ、自社の安全衛生管理体制を常に見直し、必要な災害対策を行いましょう。