傷病手当金
このお役立ち情報のポイント
- 傷病手当金の概要に関して理解しましょう。
- 傷病手当金の支給要件、支給期間、支給金額等について理解しましょう。
- 従業員が業務外のケガや病気になり労務不能となってしまった場合にするべきことを確認しましょう。
傷病手当金とは
従業員が病気やケガが理由で働けない状態にあるために会社を休まなくてはいけない場合、事業主から十分な報酬を受けることができず、従業員やその家族が経済的に不安定な状況に陥ってしまうという状況が起こる可能性があります。傷病手当金の制度は、健康保険(協会けんぽ)の被保険者である従業員とその家族の生活を保障するために設けられた制度です。
<ここに注意!>
退職後最大2年間、加入していた健康保険の被保険者であり続けることのできる制度「任意継続被保険者」の場合は、健康保険法第104条で定められた継続給付の要件を満たしている場合以外は、支給対象にはなりません。これは、任意継続は会社を退職した人に対する保険であり、そもそも就労していないという状況にあるため収入がないことが当然と考えると、その退職者への生活保障は不要と考えられるからです。
傷病手当金の制度は、健康保険(協会けんぽ)の被保険者であることに加えて、直近の所得等の支給条件や支給期間が定められています。事業主の皆様は、大切な従業員がこういった状況に陥ってしまった場合にどのように対処すればよいのか知っておく必要がありますので、期間や金額等の詳細をご確認下さい。
傷病手当金の支給条件
傷病手当金の支給には、 健康保険(協会けんぽ)の被保険者であること以外に以下に記載する「4つの支給条件」全てに該当している必要があります。
4つの支給条件
- 業務外での事由によるケガや病気のための療養であること
- 業務を行うことができないこと
- 療養のための休業が3日間連続(待機期間)であり、さらに4日以上の休業となること
- 療養のための休業期間中に給与の支払いがないこと
これら4つの要件の各詳細に関して、以下で間違えやすい点、注意する必要がある点をご紹介していきます。
1.業務外での事由によるケガや病気のための療養であること
- 業務外での事由によるケガや病気のための療養であれば保障されるため、健康保険給付として行った療養だけでなく、自費で行った診療による療養期間についても給付の対象となります。自費で行った診療による療養期間については、このケガや病気が理由で仕事に就くことができないことの証明をする必要があります。
- 社会保険の資格取得前に患った私傷病も対象となります。
- 労災保険の対象となる業務上災害や通勤災害及び病気とみなされない美容整形手術等は対象外となります。
2.業務を行うことができないこと
- 業務を行うことができない期間に含まれる公休日は、傷病手当金の支給期間に含まれます。しかし、有給休暇を利用して休んだ日については、支給の対象外となります。
- 療養をしたことによりケガや病気が回復し、医師の指示または許可の下、短時間勤務でも元の業務に就くことは、労務不能とは認められません。そのため、労務不能期間だとしても、少しでも勤務をすればその日については傷病手当金支給の対象外となります。
- 転院等の理由で医師による労務不能の証明を受けれない期間がある場合には、その証明のない期間は、傷病手当金支給の対象外となります。
3.療養のための休業が3日間連続 (待機期間) であり、さらに4日以上の休業となること
- 有給休暇を利用した休み、公休日、祝祭日なども会社を休んでいるという状態であれば待期期間として含まれます。
- 過去に同一の私傷病が理由で労務不能となり、そのケガや病気等の再発のため再度労務不能となった場合には、再度待期期間を完成させる必要はありません。休業に入った日から傷病手当金支給の対象となります。例外として、再度待期期間を完成させる必要がある場合があります。それは過去に一度、私傷病の社会的治癒が認められた場合となります。※関連Q&Aはこちら
- 夜勤等で勤務時間が2日にまたがる場合、待期期間は暦日で計算されます。例えば、夜22時~早朝6時までの8時間勤務であった場合、就労日数としては1日となりますが暦日で考えると2日となり、待期期間は2日となります。
- 就労中に、業務外の理由で生じた傷病について労務不能となり早退した場合には、その日を待期の初日として起算します。業務終了後に労務不能となった場合にはその翌日から待期期間を起算します。
- 傷病手当金が支給されるためには、必ず3日間連続の待期期間がなくてはなりません。そのため、2日日間休んで3日目には勤務をした場合、待期期間は成立しません。
4.療養のための休業期間中に給与の支払いがないこと
- 原則、労務不能期間中に給与の支払いがあった場合には傷病手当金の支給対象外となりますが、その給与支給(報酬)額が傷病手当金の支給額よりも少ない場合には、給与と傷病手当金の差額が調整支給されます。
- 労務不能期間中に出産手当金の支給が受けられる場合には、出産手当金が優先され、傷病手当金は支給されません。しかし傷病手当金の額が出産手当金の額よりも多い場合には、その差額が支給されます。
- 障害厚生年金または障害手当金を受けている場合には、障害厚生年金が優先され、傷病手当金は支給されません。ただし、障害厚生年金の360分の1が傷病手当金の日額より少ない場合は、その差額が支給されます。
- 傷病手当金を受け取ったあとに上記のような事実が分かった場合には、傷病手当金の全てもしくは一部を返金する必要があります。
傷病手当金の支給期間
傷病手当金は、待期期間(最初の3日間連続の休業)後、4日目以降の休業から支給の対象となります。傷病手当金の支給期間は、令和4年1月1日より「令和2年7月2日以降に最初に支給された期間から通算で1年6カ月」となりました。支給を開始した日が「令和2年7月1日以前の場合は 最初に支給された期間から最長1年6ヵ月」となります。
【令和4年1月1日】法改正による違い
《法改正前》
《法改正後》
「支給期間」についてのよくある質問
Q.休んでいる間の社会保険料は免除されますか?
A.免除されません。支給された傷病手当金の中から支払う必要があります。社会保険料の月額変更(随時改定)にも該当しないため、社会保険料の支払い金額は 通常の標準報酬月額を基に算出される金額となりますので、ご注意下さい。傷病手当金の支給と同時に、受給者本人から会社に社会保険料の振込みをしてもらうケースが多くあります。
Q.長期にわたる休業の場合、どのようなサイクルでの傷病手当金の申請が好ましいでしょうか。
A.会社での給与締日で区切った1か月毎が好ましいと思います。特に決まりはないので、まとめて提出することも可能ですが、本来の傷病手当金支給の目的である生活保障の面を考えると、1カ月ごとが好ましいと思います。
Q.支給期間が終了後復職できたが、同一傷病で再度労務不能になった場合、傷病手当金の再受給は可能でしょうか。
A.過去に同一の私傷病が理由で労務不能となり、そのケガや病気等の再発のため再度労務不能となった場合には、再度待期期間を完成させる必要はありません。休業に入った日から傷病手当金支給の対象となります。 しかし私傷病に対して一度「社会的治癒」が認められた場合であれば、同一傷病であっても「別の傷病」として扱われることから、再度の待期期間が完了したのち再受給が可能となります。
※「社会的治癒」とは、医師が就労可能と認めるだけでなく、相当期間、傷病のない普段の生活がおくれていること、そして就労していること、客観的にも自覚的にも症状がなく安定しており、治癒した状態のことをいいます。
Q.失業給付と傷病手当金は同時に支給されますか?
A.同時の支給はありません。失業給付は「働ける状態にあるにも関わらず、就職先が見つからない状況」にある方に対する給付となります。傷病手当金は病気やケガにより、仕事に就くことが出来ない状況なので、失業保険とは状況における支給要件が相反する制度となります。
傷病手当金の支給金額
傷病手当金の支給金額の算出方法は、
- 支給開始日の時点で12カ月以上、社会保険に加入している場合
- 支給開始日の時点で12カ月未満、社会保険に加入している場合
の2通りの算出方法があります。
支給開始日の時点で12カ月以上、社会保険に加入している場合
※1:支給開始日とは給付金が支給される一番最初の日をいいます。
※2:30日で除した際に出る小数点以下はこの時点で1の位を四捨五入します。
※3:※2で算出された金額に2/3をかけて算出された金額に小数点がある場合は小数点第1位を四捨五入します。
支給開始日の時点で12カ月未満 、社会保険に加入している場合
上記の計算式において「支給開始日以前の継続した12カ月の各月の標準月額を平均した額」の代わりに、以下の2つのうち金額の低いほうを使用します。
- 支給開始日の属する月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額の平均
- 標準報酬月額の平均値
- 30万円(※):支給開始日が平成31年4月1日以降の方
※当該年度の前年度9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額
- 30万円(※):支給開始日が平成31年4月1日以降の方
申請書のダウンロード
傷病手当金の申請書は、協会けんぽのホームページから各種ダウンロードできます。
以下のリンクをご活用下さい。
申請書のダウンロード
※申請に関する注意や添付書類に関しても、協会けんぽのホームページをご確認下さい。
退職後の継続給付について
当該の会社を退職後でも、傷病手当金の継続給付を受けることができる場合があります。その要件は以下となります。
- 退職日(資格喪失日の前日)に傷病手当金の支給を受けている、または受給可能な状態にあること
- 退職日(資格喪失日の前日)までに被保険者期間が継続1年以上であること
※任意継続被保険者であった期間は含まれません。
逆に、退職日もしくは退職後に労務に服した場合、資格喪失後の傷病手当金の継続給付を受けることが出来なくなります。つまり継続給付は、断続的な支給としての受給は出来ないということになります。
最後に
大切な従業員が業務外で病気やケガを患った際には、生活保障をしてくれる制度があります。病気やケガを患った従業員本人は、早く業務に復帰するために一旦療養に徹する必要があるにも関わらず、やはり生活のことやお金のことが不安のもとになってしまいます。
そんな時、会社の担当者はどのような手続きをすれば、どれだけの補償を受けることができるのかを従業員に説明することが重要です。少しでも従業員の不安を取り除いて療養に専念させ早期の職場復帰が出来るように、会社側も協力する必要があります。
弊社では、傷病手当金の申請手続き代行業務も行っておりますので、お手続きに関する詳細や弊社サービスの詳細につきましては、お気軽にお問い合わせ下さい。