【労基法第41条】管理監督者に関する判例
「管理監督者」という言葉を聞いて、皆さんはどのような立場にある人を想像するでしょうか。土木作業現場や工事現場の現場監督や飲食店の店長、会社の経営方針を決める立場にあるような人など様々なイメージがあるかと思います。このような立場にある人を一般的に「管理職」という言葉で呼びますが、労働基準法では「管理職」ではなく「管理監督者」として、どのような立場にある人が「管理監督者」となるのかをきちんと定義しています。会社は「管理監督者」の定義を正しく理解したうえで、「管理監督者」の立場にある労働者に適した労働規定や待遇等を法令遵守したかたちで運用する必要があります。今回の記事では、ある労働者が「管理監督者」にあてはまる立場か否かによって会社側が運用する労働規定や待遇等が適したものであるかどうか、どのようにその判断がされるのかをいくつかの判例によってご紹介します。
目次
管理監督者とは
管理監督者は、多くの人がもつ「管理職」のイメージとは異なり、労働基準法第41条によって厳しく定義されています。実際の業務内容や勤務様態と比較して、名ばかりの「管理監督者」にならないようにきちんと定義を理解して、業務規程や待遇等を運用する必要があります。
[労働基準法第41条抜粋]
- 別表第一第六号(林業を除く。)(※1)又は第七号(※2)に掲げる事業に従事する者
- 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
- 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
※1)土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業
※2)動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業
間違いやすいポイント!
- 第1項目の別表第1第6号に記載された事業のうち林業は含まれません!
- 第2項目の「機密の事務を取り扱う者」には人事に関する事務や経営担当者は含まれません!
管理監督者か否かは以下のフローチャートで判断することができます。
このフローチャートからもわかるように、以下の3つのポイントすべてに該当する場合は「管理監督者」であるといえます。
- 会社経営に関する意思決定に参画し、経営者に代わって労務管理に関する指揮監督権限を実質的に行使している
- 自己の労働時間について裁量権を有している
- 一般の従業員に比してその地位と権限にふさわしい賃金上の待遇を受けている
逆に1つでも該当しない場合には一般労働者、つまり「管理監督者」ではないということになります。役職名にとらわれず「実態に基づく判断」をすることがとても重要です。
管理監督者として認められなかった判例
「管理監督者として認められなかった判例」として大手ファーストフードチェーン「マクドナルド」で起きた裁判例、そして兵庫県姫路に本店を置く「播州信用金庫」で起きた裁判例の2件を紹介していきましょう。
日本マクドナルド事件
▼東京地判平成20年1月28日判時1998.149
対象となった労働者:ファーストフード店の店長
判例の概要
ハンバーガー直営店の店長が、会社に対して過去2年間の割増賃金の支払いを請求した裁判で、会社の就業規則において店長以上の役職を労働基準法第41条2号で定められた管理監督者として扱っている会社側と、自身の勤務実態や権限、賃金上の待遇等について不十分であると訴えた店長に対して、実際に労働基準法で定められた「管理監督者」として認められるか否かが裁判で決定されました。
判決
最終的な判決は「管理監督者として認められない」とされ、原告(店長)に対して時間外労働や休日労働に対する割増賃金が支払らわれるべきという判決となりました。判決の理由としては、
- 店長の実際の業務に対して、アルバイトの採用、人事考課、アシスタントマネージャーの一次評価、時間外協定の当事者資格、店舗従業員のシフト決定、次年度損益計算書の作成、販売促進活動の実施、一定額までの支出決裁等の権限は有するものの、店舗内部の事項に限られている。店舗の営業時間の決定、独自メニューの開発、仕入先の選定、価格設定等の経営方針の決定等に係る重要な職務と権限を有しているとは認められない
- シフトマネージャー等のスタッフが不足する場合は一般の労働者と同様に店長も出勤せざるを得ず、勤務時間に関する自由裁量があったとはいえない
- 賃金上の待遇について、下位のファーストアシスタントマネージャーと明らかな差がない
これらによって、前項で紹介した3つのポイントの全てを満たしているとはいえないため「管理監督者」とは認められない、という決定となりました。
ポイント
当該店舗の最上位の役職である「店長」であっても、労働基準法第41条で定められた管理監督者に該当するわけではありません。法の趣旨に則って実質的に管理監督者に該当するか検討する必要があることが示された判例でした。
播州信用金庫事件
▼神戸地姫路支判平成20年2月8日労判958.12
対象となった労働者:支店長代理
判例の概要
信用金庫の支店長代理が、会社に対して管理監督者という扱いでありながら実態との相違に対する不当性によって、退職前1年6カ月分の時間外割増賃金と付加金の支払い等を求めた裁判で、実際に労働基準法で定められた「管理監督者」として認められるか否かが裁判で決定されました。
判決
最終的な判決は「管理監督者として認められない」とされ、原告(支店長代理)に対して、時間外割増賃金として約351万円と付加金100万円の支払いが認められました。判決の理由としては、
- 支店長会議は報告会、意見交換程度の会議であり、経営方針の決定には関与しない会議であり、「経営者と一体的な立場」ではない
- 原告の出勤・退勤時刻は金庫の開閉という明確な仕事があるため自由に決められるものではなく、出社中の渉外担当職員に対する指示・相談業務や、支店長の管理下にあることから自由裁量があったとは認められない
- 賃金等の処遇に関しても一般労働者にあたる調査役との明確な差がない
これらによって、前項で紹介した3つのポイントの全てを満たしているとはいえないため「管理監督者」とは認められない、という決定となりました。
ポイント
支店長代理は支店長会議に出席するものの、会議内容については企業方針の決定が行われる場ではなく、単なる報告や意見交換の場であり、経営方針に関与するものではありませんでした。つまり「経営者と一体的な立場」かどうかの一判断材料として参加する会議の内容も問われる、ということが示された判例でした。
管理監督者として認められた判例
「管理監督者として認められた判例」として、大阪の医療法人徳洲会グループで起きた裁判例、そして福岡のタクシー会社で起きた裁判例の2件を紹介していきましょう。
徳洲会事件
▼大阪地判昭和62年3月31日労民30.2.491
対象となった労働者:人事第2課長
判例の概要
医療法人徳洲会グループの人事第2課長として看護婦の採否の決定等を行っていたものが、労働基準法第41条で定められた管理監督者としての地位になかったとして時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金の支払いを求めた裁判です。
判決
最終的な判決は、人事第2課長として管理監督者として認められる立場にあったとされました。その理由としては、
- 看護婦の採否の決定や配置などの労務管理を行う立場として経営者と一体的な立場であったこと
- タイムカードの打刻は義務付けられていたが、労働時間把握のためにすぎず、実際の労働時間は、自由裁量に任され厳しい制限は受けていなかった
- 人事第2課長としての責任手当、特別調整手当が支給されており、賃金上の待遇を受けていたといえる
これらによって、前項で紹介した3つのポイントの全てを満たしていると判断され、「管理監督者」として認められる、という決定となりました。
ポイント
「経営者との一体性」の判断については、近年の裁判例では緩和傾向にあります。担当部署内で経営者に代わって指揮命令を行っている場合には、経営者との一体性を認められる場合もあります。本判例では自己の判断で看護師募集業務の計画から採用までの全業務を行っており、経営者との一体性を否定することは出来ない、と示された判例でした。
姪浜タクシー事件
▼福岡地判平成19年4月26日労判948.41
対象となった労働者:営業部次長
判例の概要
タクシー会社の乗務員として勤務していた営業部次長が退職後に、時間外労働及び深夜労働の割増賃金、退職前に変更となった退職金制度ではなく退職金制度変更前との差額の支払いを求めた裁判で、営業部次長という役職にあるものの業務の実態から管理監督者として認められるか否かが争われた裁判です。
判決
最終的な判決は、営業部次長として管理監督者として認められる立場にあったとされ、時間外労働に対する割増賃金の支払い請求については棄却とされましたが、退職金規程の変更による退職金の減額等については不合理であるとし原告(営業部次長)の請求を一部認める判決となりました。監督者として認められた理由としては、
- 多数の乗務員を直接に指導・監督する立場にあった
- 乗務員の募集に対して面接に関わり、採否についても重要な役割を果たしていた
- 始業終業の点呼時に立会する立場にあったが、点呼時以外は上司からの指揮命令もなく、労働時間については厳格な制限を受けていなかった
- 従業員中最高額である報酬を受けていた
- 経営協議会のメンバーだった
これらによって、前項で紹介した3つのポイントの全てを満たしていると判断され、「管理監督者」として認められる、という決定となりました。
ポイント
始業終業の点呼があるということは、その時間は拘束されている、という解釈も可能となります。実際に上記2.播州信用金庫・支店長代理では金庫の開閉時間により、労働時間の拘束がある、と解されています。この2点の違いはなにであるのか。本判例では、指導監督する立場にあれば点呼に立会うのは当然であるとの解釈であり、単に「労働時間の拘束」という言葉だけで物事も解釈することは出来ず、社会的立場などの全体像から判断する必要がある、ということがわかります。
最後に
今回は管理監督者として「認められる場合の判例」及び「認められない場合の判例」をそれぞれ2件ずつご紹介しましたが、実際には管理監督者と認められない場合の判例の方が多くあります。つまり、ある労働者の労働の実態によって「管理監督者性を否定する場合」が多くあります。
管理監督者に当てはまるか否かの判断はとても難しく、労働基準法で定められている「管理監督者」もイエス・ノーの明確な2択で判断できるほど容易な定義ではありません。とにもかくにも、役職名に紛らわされることなく、その労働者の労働の実態を把握し、客観的に「管理監督者」に該当するかしないかを判断することが必要となります。
そのためには、労使間での日々の意思疎通も重要となります。お互いの同意のもとで定められた業務規程や待遇等の運用があれば、このように大きな裁判にまで発展するはほとんどないのではないかと思います。こちらの記事をご覧いただいたことを機に、事業主様にはご自身の会社の実態を見直して頂きたいと思います。
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