社会保険の随時改定(月額変更届)
このお役立ち情報のポイント
- 社会保険の概要、社会保険料について確認しましょう。
- 給与に大幅な変化があった際の社会保険の随時改定について、対象となる場合や手続き方法を確認しましょう。
- スムーズに随時改定を行い、適正な社会保険料を納付しましょう。
社会保険とは
概要
社会保険とは主に健康保険、厚生年金保険等を総称した保険制度で、会社で働く労働者を対象に適用事業所に属する場合には加入義務が発生します。健康保険とは業務外の病気や怪我の治療、出産に関わる費用などを保険給付する制度であり、厚生年金保険とは公的な年金制度である厚生年金への加入期間や報酬により基礎年金である国民年金に上乗せされる年金制度のための保険です。社会保険(健康保険・厚生年金保険)の保険料は事業主と労働者が社会保険料率に従ってそれぞれ負担します。 労働者が負担する保険料は、 社会保険被保険者である労働者の毎月の給料から控除されます。 ※社会保険の被保険者の種類と要件に関する詳細は「お役立ち情報:被保険者の範囲」をご参照下さい。
社会保険の適用事業所
社会保険(健康保険・厚生年金)の適用事業所は、下記のフローチャートによって強制適用事業所となるか、任意適用事業所となるかを判断することが出来ます。
このフローチャートを左上の質問からスタートして、該当するかしないかでチャートを進んでいくと強制適用事業所となるか任意適用事業所となるかを判断できます。強制適用事業所となる場合には社会保険への加入が義務付けらます。※非適用業種の詳細及び適用事業所に関する詳しい内容は「お役立ち情報:保険適用事業とは」をご参照下さい。
社会保険料の支払い額
社会保険料の支払額を決定する上で「標準報酬月額」というものを理解する必要があります。
標準報酬月額とは
「標準報酬月額」とは、社会保険料(健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料)を決定する際に、各労働者の社会保険上の等級を決定するため、労働者の月々の給料の平均値を調べることによって算出したものです。健康保険の場合は1~50の等級、厚生年金の場合は1~32の等級別に各保険料が定められています。
社会保険料率
「標準報酬月額」によって各労働者の等級が決定した後、等級別に定められた社会保険料を支払うことになります。社会保険料は事業主と労働者がそれぞれ折半で負担するかたちとなるため、それぞれの金額を決定するための社会保険料率は保険適用事業所の所在地から各都道府県別に設定された保険料額表を確認します。詳細は、協会けんぽの令和4年度保険料額表をご参照ください。
社会保険の随時改定(月額変更届)とは
概要
社会保険の被保険者の昇給または降給により固定的賃金に大幅な変動が生じた際に、社会保険料を決定する際の基礎となる標準報酬月額を見直すことを随時改定といい、その届出手続きを行うことを月額変更届といいます。
随時改定を行う場合の条件
随時改定は、次の3つの条件を全て満たす場合に行います。(日本年金機構HP抜粋)
- 昇給または降給等により固定的賃金に変動があった。
- 変動月からの3カ月間に支給された報酬(残業手当等の非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額とこれまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた。
- 3カ月とも支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上である。(※)
※「支払基礎日数」とは、月の報酬額を決定するときにその計算の基礎となる日数のことをいいます。
この3つの条件を満たす場合、変更後の給与の支払いが初めて行われた月を1カ月目として、4カ月目に標準報酬月額が改定されます。さらに詳しい内容については、次の項目「随時改定手続きの流れ」でご紹介します。
随時改定の注意点
大幅な賃金の変動があった際には、年1回の定時決定での標準報酬月額を基にして決定された社会保険料では、変動後の新しい賃金に見合った社会保険料にはなりません。大幅な昇給があったにも関わらず、定時決定での低い社会保険料を控除し続けていたら不公平ですよね。将来受け取る年金額にも影響を与えかねないことになりますので注意が必要です。実際の賃金に応じた社会保険料を支払うようにするために大幅な賃金の変動があった際には、随時改定を実施して実態に即した社会保険料に変更する必要があります。ただし、上記の随時改定を行う際の条件にもある通り、改定前と改定後の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じる場合のみ随時改定の対象となるので、必ずしも昇給や降給があったからといって随時改定を行わなくてはいけない、ということではないこともしっかりと覚えておきましょう。
随時改定手続きの流れ
随時改定から月額変更届の提出までの流れを紹介します。1~4までのステップに沿ってご確認下さい。
随時改定・対象者の確認
随時改定は、次の3つの条件(青いハイライト箇所)を全て満たす被保険者が対象となります。(日本年金機構HP抜粋)。昇給や降給によって大幅な賃金の変動があった被保険者に対して、この条件を満たすかどうか確認を行います。各項目のポイントと一緒にご紹介します。
- 昇給または降給等により固定的賃金に変動があった。
- 「固定的賃金」とは支給額・支給率が決まって支給されている賃金をいいます。
例:基本給(月給、週給、日給)、家族手当、通勤手当、住宅手当、役付手当、勤務地手当等
※非固定的賃金とは残業手当、能率手当、日直手当、休日勤務手当、精勤手当等が該当します。 - 「変動があった」とは、以下のような場合が考えられます。
- 昇給(ベースアップ)、降給(ベースダウン)
- 給与体系の変更(日給から月給への変更等)
- 日給や時間給の基礎単価(日当・単価)の変更
- 請負給、歩合給等の単価、歩合率の変更
- 住宅手当等の固定的な手当の追加・支給額の変更
- 「固定的賃金」とは支給額・支給率が決まって支給されている賃金をいいます。
- 変動月からの3カ月間に支給された報酬(残業手当等の非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額とこれまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた(※下部図解参照)。
- 注意!2等級以上の差が生じた場合でも随時改定の対象とならない場合があります。
以下の2つの場合が考えられます。- 固定的賃金は上がったが、残業手当などの非固定的賃金が減ったため、変動後の引き続いた3ヵ月分の報酬の平均額による標準報酬月額が従前より下がり、2等級以上の差が生じた場合
- 固定的賃金は下がったが、非固定的賃金が増えたため、変動後の引き続いた3ヵ月分の報酬の平均額による標準報酬月額が従前より上がり、2等級以上の差が生じた場合
- 注意!2等級以上の差が生じた場合でも随時改定の対象とならない場合があります。
- 3カ月とも支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者(=週30時間未満)は11日)以上である。
- 「支払基礎日数」とは、月の報酬額を決定するときにその計算の基礎となる日数のことをいいます。具体的には月給者の場合には各月の歴日数となり、日給月給制で欠勤がある場合には、所定日数から欠勤日数を差し引いた日数、日給者の場合には、各月の出勤日数となります。
- 「支払基礎日数」とは、月の報酬額を決定するときにその計算の基礎となる日数のことをいいます。具体的には月給者の場合には各月の歴日数となり、日給月給制で欠勤がある場合には、所定日数から欠勤日数を差し引いた日数、日給者の場合には、各月の出勤日数となります。
※2等級以上の差が生じた場合の例
固定的賃金の変動のあった月から3カ月間の平均報酬月額を算出
固定的賃金の変動があった月から3か月間の各月の賃金を確認し平均報酬月額を算出します。具体的に、どのようなものが賃金に含まれるか、含まれないかは、以下の表でご確認ください。
賃金とされるもの | 賃金とされないもの |
1.基本給(固定給)、深夜手当、時間外手当、休日手当、宿直・日直手当 | |
2.扶養手当、家族手当、皆勤手当、技術手当、職階手当、能率給、能力給 | |
3.遡って昇給した賃金 | |
4.有給休暇日の給与 | |
5.就業規則、労働契約等であらかじめ定めがあり、支給条件が明確なもの、事業主を経由したチップ、毎払い退職金(在職中に給与に上乗せ支給する退職金) | 5.結婚祝い金、死亡弔慰金、災害・療養・出産見舞金、退職手当、チップ・祝祭日などに特別に支給される給与等(A) |
6.一定額の均衡給与が支給されている場合の住宅手当相当額、物価手当、食事、被服、住居の利益 | 6.一定額の均衡給与が支給されていない場合の住宅の貸与(B) |
7.労働者が負担すべき所得税、社会保険料を事業主が変わって負担する部分 | 7.生命保険料の補助金、財産形成貯蓄奨励金等(B) |
8.通勤手当 | 8.出張費、業務遂行に必要な作業用品など (C) |
9.労働基準法第26条に基づく休業手当 | 9.労働基準法第76条に基づく休業補償費、解雇予告手当(A) |
10.年4回以上の賞与 | 10.3か月を超える期間ごとに受ける賞与・臨時に支払われる賞与(A) |
11.海外手当、在外手当(A) | |
12.残業した際などにたまたま支給された夜食(A) | |
13.離職後に支払われた未払い賃金 | 13.離職後に決定された給与(昇給含み)及び賞与(A) |
14.単身赴任手当、勤務地手当、転勤休暇手当、受験手当(実質弁償的でないもの) | 14.赴任手当、移転料、寝具・工具手当、車の損料(C) |
ここで注意したいのが、固定的賃金の変動があったとされる対象の3か月を決定する場合、変動後の固定的賃金が「現実に支給された最初の月を含む3か月間の各月の賃金」を意味するものとなることです。
例えば、3月末までの雇用形態や勤務状況の変化によって大幅な固定的賃金の変動があったとします。さらに会社の給料の支払い日が月末締めの翌月15日払いであった場合、固定的賃金に変動のあった「3月分の給料」というのは、翌月4月15日に実際に支払われるので、社会保険の随時改定における固定的賃金の変動があった最初の月は4月ということになります。下の図のように4月、5月、6月の給与を確認し3か月間の平均報酬月額を算出します。
「健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届」の作成・提出
随時改定を行う際の所定の届出書類は、日本年金機構HPをご参照下さい。
最後に
従業員のお給料が昇給や異動などの事情によって変更となった場合には、それに付随して、社会保険関連のお手続きも必要となります。随時改定(月額変更届)については、お給料の額に変化があった労働者が随時改定の対象者となるか否かの判断が難しい場合もあります。保険料の支払いに関しては、後々問題となった場合にとても面倒なことになります。そのようにならないためにも、煩雑な事務手続きは社会保険のプロである社会保険労務士にお任せください。
また「従業員の手取り給与を上げてあげたい」との思いで行った昇給によって社会保険料も一緒に上がってしまうことで思ったより手取り給与額が上がらなかった、と残念な気持ちになられる事業主様もいっらしゃいます。事業主様と共に賃金シミュレーションを行いながら、将来の賃金設計を行うことも、弊社では可能です。ぜひお気軽にお問い合わせ下さい。