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コラム

注意!未払い賃金の請求期間は3年です

2020年4月に施行された労働基準法の法改正によって、未払い賃金の請求期間が2年から5年に延長され、当面の間は3年間ということで運用されています。法改正が行われてから間もなく3年が経とうとしていますが、今、未払い賃金に関わる訴訟が起こってしまった場合、3年分の未払い賃金の請求がなされてしまう可能性があります。会社側にとって金銭的負担(リスク)が大きくなる出来事になりかねないため、今のうちからリスク軽減のために労働時間管理をしっかり行いましょう。

2020年4月施行の労働基準法改正

民法の債権消滅時効に関する法改正が2020年4月に施行されました。この民法改正に伴い、労働者にとっての債権である「賃金」については労働基準法により定められているため労働基準法も改正されるかたちとなりました。改正の概要は以下の3点となります。

賃金請求権の消滅時効期間の延長(労基法115条)

賃金請求権の消滅時効期間が2年から5年に延長となりました。ただし当分の間、消滅時効期間は3年として運用することとなっています。これは、2020年4月1日以降に支払期日を迎えるすべての賃金が新たな消滅時効期間の対象となることを意味しています。

この賃金請求権の対象となるものは以下となります。※厚生労働省発行資料抜粋

  • 金品の返還(労基法23条、賃金の請求に限る)
  • 賃金の支払(労基法24条)
  • 非常時払(労基法25条)
  • 休業手当(労基法26条)
  • 出来高払制の保障給(労基法27条)
  • 時間外・休日労働等に対する割増賃金(労基法37条)
  • 年次有給休暇中の賃金(労基法39条9項)
  • 未成年者の賃金(労基法59条)

これらの賃金の詳細は、労働基準法の該当の項目をご参照下さい。

賃金台帳などの記保存期間の延長(労基法109条)

賃金台帳等の保存期間が3年から5年に延長となりました。 ただし当分の間はこれを3年として運用することとなっています。の保存期間の起算日についても明確化されました。

保存期間の延長の対象となるものは以下となります。※厚生労働省発行資料抜粋

  1. 労働者名簿
  2. 賃金台帳
  3. 雇入れに関する書類
    • 雇入決定関係書類、契約書、労働条件通知書、歴書など
  4. 解雇に関する書類
    • 解雇決定関係書類、予告手当または退職手当の領収書など
  5. 災害補償に関する書類
    • 診断書、補償の支払、領収関係書類など
  6. 賃金に関する書類
    • 賃金決定関係書類、昇給減給関係書類など
  7. その他の労働関係に関する重要な書類
    • 出勤簿、タイムカードなどの記、労使協定の協定書、各種許認可書、始業・終業時刻など労働時間の記に関する書類、退職関係書類など
  8. 労働基準法施行規則・労働時間等設定改善法施行規則で保存期間が定められている記
    ※起算日の明確化を行う記は、このうち賃金の支払いに関するものに限ります。

保存期間の起算日の明確化については、上記の②、⑥、⑦、⑧の記に関する賃金の支払い期日が記の完結の日より遅い場合には、当該支払期日を記保存期間の起算日とすることとなりました。

付加金の請求期間の延長(労基法114条)

付加金の請求期間が2年から5年に延長となりました。 ただし当分の間はこれを3年として運用することとなっています。付加金とは、割増賃金違反などがあった場合に裁判所が未払い賃金に加えて支払いを命じるものをいいます。

労働基準法改正

法改正による会社にとっての必見ポイント

従業員の労働時間を正しく把握しましょう

旧法において賃金請求権の消滅時効期間が2年で未払い金が500万円だったとすれば、この法改正により、その期間が3年になったことによって支払う未払い金は750万円となる可能性があるります。未払い賃金訴訟となってしまった場合、未払い賃金の支払いに加え付加金も支払うことになり金銭的負担はさらに大きくなるといえます。未払い賃金の発生、そして未払い賃金訴訟へと発展しないように、労働時間を正しく把握することが必要です。

労働基準法では未払い賃金防止や長時間労働防止の観点から「賃金=労働時間」という関係を重視しています。これによって労働時間の正しい把握が重要であることがうかがえます。再度、労働時間の正しい把握は会社の責務であることを認識しましょう。

労働時間を正しく把握するために必要なステップを確認しましょう

労働時間を正しく把握するためにはタイムカードなどの客観的書類が必要となりますが、記された労働時間が正しいとは限りません。労働時間を正しく把握するために必要なステップがあります。

  1. 労働者に労働時間を正しく記(申告)するように十分な説明を行う
  2. 労働時間を管理する者(上司など)に対しても十分な説明を行う
  3. (申告による)労働時間が実際の労働時間と合致しているか否か実態を調査し適宜補正する
  4. (申告した)労働時間を超えて事業場内にいる時間があれば、その理由を労働者に報告させ、報告が適正かを確認する
  5. 使用者は、労働者が申告できる時間外労働の時間数上限を設け、超える時間を認めない、など適正な労働時間の申告を阻害する措置を講じない

労働時間が自己申告制の場合、不適切な運用が多いため、上記のステップが重要といえます。このステップに関する詳細は、厚生労働省発行の「労働時間の適正な把握 のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」をご参照ください。

賃金台帳の記と保存された労働時間を活用しましょう

賃金台帳は給与計算などの事務的な資料として保存しておくことも必要となりますが、労働時間を正しく把握する観点からも役立に立ちます。月々の労働時間を比較することによって、年間の繁閑状況を客観的な数値で見ることができ、働き方を見直す一データとして利用することができます。

最後に

これまでの説明で、未払い賃金の請求において最小限のリスクで抑えるためにも、労働時間の適切な把握が必要であることは理解してもらえましたでしょうか。法改正により労働者保護は手厚くなりますが、一方で事業主は未払い賃金があった際にそれらが高額化するリスクや労務コストの上昇が伴います。当分の間の請求期間は3年とされていますが、本来の5年となった際には、よりリスクが大きくなります。

労働時間が必ずしも会社の利益とイコールになるとは限らないので、経営者にとっては悩ましいところではありますが、会社側の都合のいいように解釈せず、しっかりと法に則った労務管理を行うようにしましょう。

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